日日古本屋

岐阜の古書店・徒然舎店主の日乗です

10月2日(金) 雁

12時開店に変更して2日目。開店直後から、金曜日らしからぬバタバタ。開店が1時間早まることに、頭と身体がついていけるかな、と心配していたけれど、ありがたいことに強制的に動かされる。店内にいつもお客様がいて、本が触れられていることが、とても嬉しい。本も人も風も、いつも心地よく流れる店でありたい。

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店頭で、現代短歌や詩集など、状態のよいものばかりを100冊弱まとめてお買取。書肆侃侃房など今勢いのある出版社や作家のものも多く、品揃えが薄かった当店としては大変ありがたい。精いっぱいのお支払いをさせていただく。

さっそく検品をしながら、本の中の空気を吸う作業。ぱらぱらとページを送っていると、気になる言葉には目が留まる。今日、指を止めたのはマーサ・ナカムラだった。どちらかといえば不穏な、心地よくはない言葉なのだけど、きちんと読みたいと思わされる。詳しくは知らない作家だったので何気なくWikipediaを見ると、「転機は蜂飼耳の授業を受けたこと」とあり、腑に落ちる。

 

毎日来られるのが当たり前のYさんは、猛暑のあいだ2か月以上まったく音沙汰がなく、同じように通われているご近所のお店のご主人に消息を尋ねたりもしたが、先週ひょっこりと顔を出され、それ以来また毎日、来店されている。今日は2回来られた。自転車を漕ぐ音が軽快で安心した。われわれを質問攻めにするトーンも、いつも通りになってきた。

ラジオで今、森鴎外の「雁」が朗読されているのだけれど、なぜタイトルが「雁」なのかがさっぱりわからない、と先日からおっしゃる。どこがいいのか全然わからないから教えてくださいよ、とも。

そういえば読んだことはないな、と思い、あらすじなどを読んでみる。いろいろ読むうち、確かになぜ今「雁」が朗読されているのだろう、どんな意図で作品が選ばれたのだろう、と、考え出してしまう。その物語のどこかに、いま読まれるべきものがあると思われたのかな。なんだか胸に引っかかりだしてしまう。