日日古本屋

岐阜の古書店・徒然舎店主の日乗です

6月3日(水) ついに明日

急激な暑さと酷い乾燥に身体が追いついていかない。毎年この時期に苦しめられる花粉と紫外線の攻撃もあり、皮膚がボロボロ、あちこちが痒くて、掻き破ってしまったところが痛い。飲む痒み止めに救われているけれど、眠くなりすぎる。刻一刻と迫る再開に向けての緊張感で忘れていた眠気が一気に呼び起こされる感じで、夜に飲むと落ちるように寝てしまう。

 

昨日は再開に向けて必要なものを買い出しに。メインは、マスク無しでご来店されたお客様用のマスク。少し迷ったけれど50枚2,000円のものを買う。40円で、他のお客様とスタッフの安心と快適が買えるのなら、と思い切る。いろいろなお店をまわると、それぞれに、試行錯誤しながら営業しているのを感じる。

夜、家で張り紙づくり。きちんと伝えたい、でも、なるべく気分を害されないようにしたい。ほぼそのために買ったインクジェットプリンタでいろいろと打ち出してみては作り直す。とりあえずカラープリンターが久しぶりで楽しい。

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今日は夕方から店へ。月曜夜以降の通販やメールを処理しながら、再開のために、あと何をすればいいのだっけ、と考え続ける。考えながら店内を歩くと、手を入れたいと思う棚ばかり目につく。焦る。けれど、いまは欲張らない方がいい、と言い聞かせて、新刊コーナーにだけ手をつける。休業中に入荷した新刊や、再開の日のために用意していた特典付き「岐阜マン」などを加えながら、全体的に手を入れる。小さなスペースだからこそ、いつもなるべく新鮮に、なにかあるかな?とチェックしていただけるように。

いくつかの出版社や取次に注文メールを送る。コロナ禍(こんな人文学的な印象のことば、何故いきなり現れてカジュアルに定着したのかなあと、テレビで聞くたび不思議に思う)のなかでの日記を集めた本がいくつか出版されるのを知る。さまざまな立場でこの日々を過ごしてきた人たちの記録。たしかに読んでみたい。わたしのこの日記も、いつか自分で読み返すとき、どんな想いが湧くのだろうと思いながら書いているところもある。ずっとこんな日々は続かないだろうけれど、この日々がなかったことにはならない日常が待っているのだろうから、なにかしら、答え合わせのような気持ちで読むことになるのだろうなと思う。

 

さて、ついに明日だ。

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5月31日(日) 潮目

そうか今日は5月最終日か。休業してから、まる2か月経ったのか。もうなんだかまったく時間感覚がおかしくなってしまっている。作業しながら汗をかく日が増えてきて、Tシャツを着始めたのだから、そりゃあ初夏か。

この2か月、これまでにない頻度で申請書やら契約書やらを作り続けてきた。何枚作っても慣れることはないけれど、抵抗感は薄らいできているので、この流れで労働保険の年度更新も、10万円給付のあれも書いてしまう。

 

まちもSNSも、少しずつ様子が変わってきたのを感じる。営業してますか、というお問合せ電話も増えてきた。そろそろ、休業していられなくなったなと思う。

仕事が飛んだ芸人さんたちのラジオや配信を聞いていると、暇さを嘆きつつも、少しずつその暮らしに馴染んできている様子と、ここにきて「元の暮らし」に戻るのが正直少しめんどくさそうな、今の暮らしを手放すのが惜しそうな様子を感じる。これまでみたいに一日中仕事を詰め込んで働かなくてもええかなって、それなりにご飯が食べられて家族と過ごせるのがいいなあって、思うようになっちゃいました、というようなことを、千鳥ノブも言っていた。

今日Yahoo!ニュースでパチンコの記事を読んだら、コメント欄に「自粛で1か月行かなかったら、行きたいという気持ちが湧かなくなった」というようなコメントが溢れていた。

ゴールデンウィークという一年で一番いい気候の、行楽娯楽でアクティブな季節を「自粛」で過ごした人の気持ち、価値観は、大なり小なり思いがけない変化があったのだろうと思う。店が休業したぶん例年以上に働いたようにすら思うわたしには、立ち止まらされたら見えるものは見つけられなかったけれど、人々の心の変化はとても気になっている。

withコロナの世界では、これまで成り立っていた店、業種、仕事が大きく揺さぶられることになるのだろう。古本屋は、徒然舎は、これからも選んでもらえる店になるのだろうか。選ばれたいと思うし、そうならないといけないと思う。そのためには、常に変化に対応して進んでいくしかないのだと身を引き締める。

とはいえ。

毎日12時半からゆったり昼休みを取れて、自転車で柳ヶ瀬にテイクアウトを買いに行けて、ダイアンやキャンプの動画を見て笑いながら食べて、気分次第で音楽やお笑いラジオを店に流しながら仕事できるなんていう楽しさを覚えてしまったので、これを手放す寂しさも、実はある。

 

来週には、とにかく店を少しでも開けようと思う。この潮目を逃すと「もっといい感じになってから」と思ってしまって、ずるずるといつまでも開けられなくなる気がする。そうしているうち緊急事態宣言再発令でもされてしまったら、こんな店のことなどすっかり忘れられてしまうだろう。

棚の手入れをしながらぐるりと店内を見渡すと、どことなく、修羅場をくぐり抜けなんとか生き抜いてきた「貫禄」が出てしまっている感じがする。フレンドリーさよりも、ウイルスに負けないぞ!という強さが目立ってしまっている。目付き鋭く殺気立ってしまっている本をなだめながら、まるく、穏やかな空気になるように、棚に手を入れていく。お客様をお迎えするまで、あと少し。

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夜、不忍ブックストリームの配信を見る。仲良しの東京の古本屋・古書往来座の瀬戸さん(と武藤さん)の姿を画面越しに見られて嬉しい。元気そうでよかった。東京の市場に行くたび会っていたけれど、もう、ずいぶん会えてない。寂しいなあ。早く会ってくだらないお喋りをいっぱいしたい。またあの往来座へ行って、初心を思い出したい。

瀬戸さんを見てやる気が沸き立ったか、太閤堂は本棚を作りに店に戻った。まだ帰ってこない。

5月28日(木) 再開というより再出発

いつもより早く店へ。月末で定休日明けで非常事態なので、やらなければならないことが大量。銀行と郵便局を渡り歩き、忘れ物して往復したりしつつも、なんとか一山越える。がんばったので、ドラえもん切手を買う。

昼過ぎに社労士さんが来店。初対面の人と会って話すのがものすごく久しぶりに感じる。パーテーションのある対面スペースを事務所には準備できなかったので、レジカウンターごしにお話。なんとも失礼なシチュエーションだが、今ならお許しいただける。6月から迎える社員さんについてのご相談。いつの間にか、あと数日だ。

午後から母が来て、太閤堂と一緒に、植え込みを全面的に手入れしてくれる。とにかく手が回らず酷い有様だったので、これをなんとかしないことには店は再開できなかった。ひとまずみっともない状態から脱却してもらえたので嬉しい。それにしてもわたしは園芸はからっきしだめだ。

今日の仕事は20時まで。一日中よく動いたなあ、動けたなあ、ということに達成感がある。内容はともかく、こういう日は心が健康なのがいい。身体も疲れていて、よく眠れそうな気がする。

メールのやり取りをしていたお店の方から、「(知り合いの業者さんの間に)再開というより再出発!という空気感があります」という言葉を聞く。すごくわかる。次に店を開ける世界は、休業する前の世界とはまったく違っている。3月末から入り口を閉ざした店の中に残っていた、ビフォーの世界の気配。そこへの郷愁を振りほどきながら、おそるおそる前へ進む。新しい世界は、行ったり来たりでストレスの多い世界だろうけれど、必ずしも悪いことばかりじゃないだろう、という予感はある。

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5月26日(火) 書けない理由を探す

昨夜またベランダにテントを張る。前回は肌寒い夜気がちょうどよかったのに、今回は雨の前というのもあってか風もなく蒸し暑くて、寝るのは諦めた。春らしさを感じる暇もないまま、あっという間に過ぎ去っていった季節。

今日は夕方から雨が降り始めたので、これ幸いとベランダに出る。敢えての半袖Tシャツ。雨粒が薄いシートに当たり音をたてる。雨音と風が気持ちいい。寝袋にくるまりごろごろする。やっぱりキャンプは暑いより寒い方がいいなあ。でもこれからの「新しい日常」では、冬から春のキャンプ場はクローズになるのかもしれない。

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生産性のあることを一切しないで過ごした休日。どうして日記が書けなくなったのだろう、と、考えていた。

ひとつには、またフェーズが変わって、これまでと違う忙しさ慌ただしさに飲み込まれる日々になってしまったせい。店舗休業後、通販だけを全スタッフで支えてなんとかここまで持ちこたえてきたけれど、緊急事態宣言が解除された今、そろそろ店舗を開けなければならない。けれど完全には戻らないであろうその売上を支えられるよう、今後は店舗営業と通販を両立させなければならず、そのためには、これまでにない「システム」を作らなければならない。いつの間にか人数が増え「組織」であることを意識しなければならなくなった徒然舎。組織が苦手だった会社員時代を反面教師にしながら、しかし「組織」をつくっていかなくてはならない。新たに社員を受け入れる6月までに、と焦る気持ちもあり、慣れない仕事にストレスも疲労も積み上がっていく。

そしてもうひとつは、心の置きどころが定められずにいるせい。休業後、ただただ必死だったひと月半は、毎日苦しかったけれど、今はそういう時なのだと納得して日々を過ごしていくことができた。けれど今、分からないことばかりのなか、皆が手探りで動きだすしかないこの状況を、どう捉えていけばよいのか、そして自分は何をするべきなのか、心にしっくりくる答えがなかなか出ない。嬉しいような、困ったような、全力で頑張りたいような、それはよくないような、浮かれてしまいそうになる気持ちと、それを抑えようとする気持ち。自分の立つ場所が定められず、足元がふわふわして居心地が悪い。

やることだらけの中そんな気持ちが延々と交錯する、1日1日の区切りが感じられないような日々が、この1週間くらい続いている。実はこれまでも、毎日、日記に取り掛かってはきたのだけれど、定まらない気持ちのままではあまりにも取り留めなく、いろいろ見失ってしまって、書き切ることができずにきてしまった。

時は着実に流れ、店を再び開ける日も近づいてきている。早く、徒然舎にとっての「新しい生活様式」を見つけたい。淡々とでも日記を書ける穏やかな夜がほしい。いったん一息つける時間がほしい。キャンプに行きたい。

5月22日(金) 「ニューノーマル」

溜まり続けていた気持ちをようやく言葉にできた木曜の未明。少し寝て起きて、よし、今日から、再開への道を進もう、と気持ちが整った。と思った途端、やらなくてはならないことが一気に見えてきて、くらくらした。

店を開けられる喜びと、どうやって営業していったらいいのかという不安や迷いとを比べると、正直なところ、今は後者の方が大きい。けれど、行きつけのリラクゼーションや、行きたかったキャンプ場が再開した報せにものすごく喜んだ自分がいて、同じように徒然舎の再開を待ってくれているお客様がいらっしゃるのかもしれないと思えば、とにかく再開するためにがんばれよ!がんばるしかないだろう!と、思う。

 

物理的な準備は、少しずつではあるものの進んでいる。このご時世、通販にもタイムラグがあり、欠品・入荷未定のものも多いため、欲しいものが思うようには手に入らない。そんななかやっと、手指消毒用の代用77%アルコール(酒)、それを入れる自動ディスペンサー、店内人数制限用のレジかご、そしてレジ周りのパーテーションまでは準備できた。棚の移動も進め、レジ横に持込買取用のテーブルも設置した。

とにかく、なにをどこまで対策したら大丈夫なのかがまったく分からない中での準備。それでも、少しずつ様相を変えていく店内に、わたしは、前に進めていると思える安心感と達成感を感じていた。

レジ周りのパーテーションが完成したことに気づいたスタッフさんが何気なく「物々しいですね…」「すごく変わるんですね」と、驚いて言った。その声に、少し、引いてしまっているようなニュアンスがあることに気づく。ああ、そうか。そうだよな。お客様の中にもそういう反応をされる方は、きっといらっしゃるだろう。安心して店を開けるための準備は、もしかしたら、必要以上に過剰で、拒絶的にさえ見えるのかもしれないのだ。

デザイン専門学校に通うスタッフさんが、「学校で、これからの『ニューノーマル』について書け、っていうレポート課題が出たんです」と話していた。バリケードに開けられた銃を打つための穴のような狭いお渡し口から本を渡すことは、けっして無礼ではなく「ニューノーマル」なのだと、果たして、幅広い世代が受け入れてくれるようになるのだろうか。

仕事終わりに立ち寄ったスーパーで、新商品の冷凍麻婆丼が気になり手に取ると、激辛のため苦手な方は食べないでください、と注意書きがあり、ああ残念と冷凍庫に戻した。その瞬間、背後から大声で「触ったものを戻すな!おい!お前!」と年配男性に怒鳴られた。「ニューノーマル」の暮らしの中で、いつか、もしかしたら、時や言葉の流れ方次第で、誰が触ったか分からないものを売る中古販売業すべてが悪とされてしまうことさえ起こりかねないのでは、と、思うことも、ある。

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5月19日(火) 休まない休日

もちろん、晴れやかな天気のせいもあっただろう。目が覚めてからずっと、なにかしら、力が込み上げてくるのを感じていた。仕事のある日と同じ時間に目が覚め、なにかしなきゃ、なにかできないかな、と、気づいたらそんなことばかり考えていた。

何気なくチェックすると、持続化給付金が入金されていた!そして同時に、消費税が引き落とされていた。なんだよう。なんだか残念な気持ちになりつつ、いや、でも、ちょっとしたネタになったな、と笑ってしまえる自分がいた。今日だから、そう思えた。

家にいても、店内のレイアウトを考えたり、張り紙の文言を考えたり、必要なものを買えないかネットを探し回ったり。結局落ち着かないので、店に行くことにする。

その前に、14時半くらいの今なら、と、ものすごく久しぶりに回転寿司に行く。ヘトヘトな夜、閉店間際に行ってささっと食べて帰ったり、頑張った1週間の終わりにプチ打ち上げで行くことが多かった回転寿司。やはりイートインとなると、足が遠のいてしまっていた(何度かテイクアウトはしている)。ガラガラの店内、明るい日差しの中で食べた回転寿司は、美味しかったけれど、なんだかちょっと違う感じがしてしまった。

通販の対応をしながら、店内を眺めてレイアウトを考えたり棚の本を移動させたり、本に値段をつけたりしているうち、外が暗くなった。太閤堂もまた、2階の事務所で、新たに作る本棚の設計をしている。お腹もいっぱいなので、21時過ぎまで、黙々と仕事をして、それがなにより落ち着く休日だった。

夜、発売後すぐに買ってあったINA『牛乳配達DIARY』をようやく読み始める。本を読み始められるように、ようやく、なった。そしてやっぱり、この漫画は、すごくいい。もったいなくて、今夜は半分でやめておいた。きちんと生きている人が、わたしは好きだ。

牛乳配達DIARY (torch comics)

牛乳配達DIARY (torch comics)

  • 作者:INA
  • 発売日: 2020/04/13
  • メディア: コミック
 

 

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消毒アルコール代用のお酒がたっぷり届いた。せっかくなので、岐阜から近い木曽のメーカーに。頼もしい輝き。

5月18日(月) 動きはじめる初夏

今日はそれをしようと思っていた。いちばん長く居てくれているスタッフSさんに、店の営業再開に向けた、店内のレイアウトを相談する。長く店番をしてくれていて、お客様の動き方や棚の見方、お支払いの仕方、買取やご相談のパターンなども熟知している彼女と、様々なシミュレーションをしながら検討し、細かく修正していく。

特に問題になるのは買取だ。「密」にならない対応方法を見つけなければならない。そもそも普段でも、あまり広くない店内での持ち込み買取の対応には手こずっていた。受け取ったり、査定したり、しばらく預かったり、買い取ったものを保管したり。すべてにおいてスペースが足りていない。(そもそも、開店から閉店まで自分ひとりで店番していた頃とは、スタッフの数もお客様の数も違ってきているので、レジの内側はとにかく手狭になってしまっている)

レジ横にある袋小路も、よくお客様同士がすれ違えなかったり、棚を見たいのに先客があると見られなかったりと、狭さ故の小さなトラブルが発生していた。そんなぎゅっとした感じも、古本屋なら風情として許していただけるかとも思ってきたが、今やこれも解消しなければいけない問題になった。

相談の末、レジ横にある棚を1本撤去し、通路を広くし、そこに買取用の机を置くことに決める。そしてその袋小路自体を立入禁止にし、そこに置いてある本は、なんとか別の棚に移し替えることにする。いろいろと大変そうだが、今できそうな方法はこれしかない。

ときにロールプレイングしながら、あれやこれやと話しているとき、Sさんが、いきいきとしているように見えた。わたしもまた、店内を歩き回りながら、だんだん気持ちが上向いていくのを感じた。

再開のためにやるべきことが、やっと、かたちとして見えてきた気がした。あとは、動き出すだけだ。

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夕方。よし、と声を出して立ち上がり、棚に手をつける。

長く売れていない本を抜き、新しい本を追加する余裕も考えながら、棚を詰めていく。封鎖する袋小路にある分の本が移せるよう、入口側に移動していく。なるべくしゃがまずに本が見られるように最下段の棚はあけ、床に置いていたボックスを片付けて足元を広くする。これほど大掛かりな棚移動はなかなかできなかったので、棚の奥を掃除したり、本の検品もしながら進めていたら、夢中になっていた。

暑い。汗ばむ。3月末のまま、店の棚も、わたしの気持ちも止まっていたけれど、もう初夏なんだ。