日日古本屋

岐阜の古書店・徒然舎店主の日乗です

5月31日(日) 潮目

そうか今日は5月最終日か。休業してから、まる2か月経ったのか。もうなんだかまったく時間感覚がおかしくなってしまっている。作業しながら汗をかく日が増えてきて、Tシャツを着始めたのだから、そりゃあ初夏か。

この2か月、これまでにない頻度で申請書やら契約書やらを作り続けてきた。何枚作っても慣れることはないけれど、抵抗感は薄らいできているので、この流れで労働保険の年度更新も、10万円給付のあれも書いてしまう。

 

まちもSNSも、少しずつ様子が変わってきたのを感じる。営業してますか、というお問合せ電話も増えてきた。そろそろ、休業していられなくなったなと思う。

仕事が飛んだ芸人さんたちのラジオや配信を聞いていると、暇さを嘆きつつも、少しずつその暮らしに馴染んできている様子と、ここにきて「元の暮らし」に戻るのが正直少しめんどくさそうな、今の暮らしを手放すのが惜しそうな様子を感じる。これまでみたいに一日中仕事を詰め込んで働かなくてもええかなって、それなりにご飯が食べられて家族と過ごせるのがいいなあって、思うようになっちゃいました、というようなことを、千鳥ノブも言っていた。

今日Yahoo!ニュースでパチンコの記事を読んだら、コメント欄に「自粛で1か月行かなかったら、行きたいという気持ちが湧かなくなった」というようなコメントが溢れていた。

ゴールデンウィークという一年で一番いい気候の、行楽娯楽でアクティブな季節を「自粛」で過ごした人の気持ち、価値観は、大なり小なり思いがけない変化があったのだろうと思う。店が休業したぶん例年以上に働いたようにすら思うわたしには、立ち止まらされたら見えるものは見つけられなかったけれど、人々の心の変化はとても気になっている。

withコロナの世界では、これまで成り立っていた店、業種、仕事が大きく揺さぶられることになるのだろう。古本屋は、徒然舎は、これからも選んでもらえる店になるのだろうか。選ばれたいと思うし、そうならないといけないと思う。そのためには、常に変化に対応して進んでいくしかないのだと身を引き締める。

とはいえ。

毎日12時半からゆったり昼休みを取れて、自転車で柳ヶ瀬にテイクアウトを買いに行けて、ダイアンやキャンプの動画を見て笑いながら食べて、気分次第で音楽やお笑いラジオを店に流しながら仕事できるなんていう楽しさを覚えてしまったので、これを手放す寂しさも、実はある。

 

来週には、とにかく店を少しでも開けようと思う。この潮目を逃すと「もっといい感じになってから」と思ってしまって、ずるずるといつまでも開けられなくなる気がする。そうしているうち緊急事態宣言再発令でもされてしまったら、こんな店のことなどすっかり忘れられてしまうだろう。

棚の手入れをしながらぐるりと店内を見渡すと、どことなく、修羅場をくぐり抜けなんとか生き抜いてきた「貫禄」が出てしまっている感じがする。フレンドリーさよりも、ウイルスに負けないぞ!という強さが目立ってしまっている。目付き鋭く殺気立ってしまっている本をなだめながら、まるく、穏やかな空気になるように、棚に手を入れていく。お客様をお迎えするまで、あと少し。

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夜、不忍ブックストリームの配信を見る。仲良しの東京の古本屋・古書往来座の瀬戸さん(と武藤さん)の姿を画面越しに見られて嬉しい。元気そうでよかった。東京の市場に行くたび会っていたけれど、もう、ずいぶん会えてない。寂しいなあ。早く会ってくだらないお喋りをいっぱいしたい。またあの往来座へ行って、初心を思い出したい。

瀬戸さんを見てやる気が沸き立ったか、太閤堂は本棚を作りに店に戻った。まだ帰ってこない。