日日古本屋

岐阜の古書店・徒然舎店主の日乗です

2月19日(水) 本との出会いをお楽しみください

名古屋・今池のtonariさんに、もうすぐ始まる「ねこ展」に並べていただく本を運んだ後、先月から約1か月間お世話になった、正文館書店知立八ツ田店での古書フェアの撤収に。

昨年末の恵文社一乗寺店さんでの古本市から始まり、連続していたイベント準備、出店ラッシュがようやく一段落した。

ひとつひとつのイベントはどれも楽しみで、また冬場はやはりご来店が減る分、売上もありがたいので、たくさんのお声がけをいただけるのは本当に嬉しいのだけれど、本のセレクトと値付けはどうしてもわたし一人の仕事になってしまうので、次々と頭を切り替えて本を選び値段をつけてゆくのは、いろいろとしんどい時もあった。

また今年は年明けから、生死やお金など、シビアでシリアスな出来事に遭遇することも多くて、なんだか心が休まらない日々だった。

そういう諸々も、今日で一区切り。

明日から始まるプレーンな古本屋生活が楽しみなのだ。

 

f:id:tsurezuresha-diary:20200220012357j:image

正文館書店では、定期的に営業時間のアナウンスが流れる。

「当店の営業時間は、朝10時から夜10時までとなっております。ごゆっくり、本との出会いをお楽しみください」

この、「本との出会いをお楽しみください」の部分が、いいなあ、と、いつも思いながら作業している。

 

店を開けて、お客様に提供しているのは、「本との出会いを楽しんでいただく時間と空間」なのだと、わたし自身も、常に思っている。

東北の震災直後、無力感に襲われ、なにも気力が湧かない日々があった。報道にもSNSにも厳しい現実が次々と晒され、人々の激しい悲しみや怒りが渦巻き、さまざまな大きな声がぶつかり合っていた。それらをきちんと受けとめたい、自分の頭で考えたい、と思えば思うほど、感情が揺さぶられ続け、だんだんと心が消耗し、心身が衰弱していってしまっているような感覚があった。

こんな無力な自分に、何ができるというのだろう。

9年前の3月下旬、年明けに借りたものの、資材不足や流通の麻痺により一向に開店準備が進まなくなった前の店舗に佇んで、ぼんやりしていた。

そんなとき、「早く店を開けてください。明るいニュースが、希望になります」と、東京に暮らす知人からメッセージをもらった。

その声で、ハッと我に返り、手元にある少ない本と、貸してもらったりいただいた棚や木箱に本を詰め、とにかく店としてドアを開けた。開けなければと思った。

すると。ぽつぽつと、そんな店とも言えないような小さな店に、お客様が入ってきてくださったのだった。それぞれに、いろいろな気持ちで、本を眺め、手にとり、ぱらぱらと読んでみて、惹かれるものがあったら、買ってくださった。

小さな町のこんな小さな古本屋であっても、その場に来てくださったお客様に、本と出会い、本と過ごす純粋な時間と空間を提供できるのだということが、ほんとうに嬉しかった。それは、ちょっと大袈裟に聞こえるけれど、自分が生きていく意味を見つけられたように思えた体験だった。

 

つい長たらしくなってしまったけれど、とにかく、その日から、自分の店は、お客様が「本との出会いを楽しんでいただける」ことこそ至上だという信念でい続けている。

本の質や量をはじめ洗練された店舗デザインや駐車場等々は、なにぶん資金の限界で叶わないところもたくさんあるけれど、まずは精一杯よい本を並べること、そして温度や音楽や香りや掃除など細かいけれど大切な居心地の良さや、きちんとしたスタッフの対応など、お客様の期待に応えたい、出来ることは可能な限り頑張っていきたいのだ。

そして何より一番大切にしていることは、

潰れてしまわないこと。

とにかく、店を開け続けていくこと。

食べていけなくなってしまったら、元も子もない。

だから、今日一息つきましたが、明日からもまた、気づけば必死に働いているんじゃないかと思います。

f:id:tsurezuresha-diary:20200220020806j:image

イベントを乗り切った自分へのご褒美、佐々木マキ!嬉しい!