日日古本屋

岐阜の古書店・徒然舎店主の日乗です

1月31日(火) 長くて濃密な本の一日

朝から市場へ。月に一度の担当の日。昼食は会のメンバーで事務所に集まり、弁当を食べる。

太閤堂は市場に来ると、相変わらず、店にいるときとはまた違う感じに活き活きしている。30年来通ってきているだけはあるなあといつも思う。わたしは慣れてきこそすれ、お邪魔している感じは常にある。

久々の出来高で喜んだ後は、メンバー一同、大市の案内状の封入作業へ。そちらが気になりつつも、会計がなかなか合わず締められない。ようやく数字が合い、ひと休みしてから合流しようとソファに座ったら、終わったよ、とみんなに言われる。

夫婦喧嘩してしまい店が模様替えできない、という古本屋さんに、夫婦の意地の張り合いより良い店にすることの方が大事じゃないですかねえ、と話してみたり、これから始まるイベントシーズンのあれこれをみんなで情報交換したりしているうち、外が暗くなってくる。雑談は尽きないが、後が詰まっているのでと市場を後にする。

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デパートで花とクッキーを買って、今日が営業最終日となる七五書店へ。店内は、車の中から覗いてもわかるくらいの賑わい。店内の人混みを、この日に駆けつけて棚を見よう何かを買おうという方々の思いを目にして、さほど通ったわけでもない自分が足を踏み入れてよいのだろうかと一瞬怯んでしまったが、太閤堂におされて入店し、すぐにレジのおふたりにご挨拶をする。なにかを話すのは難しい、と思っていたら電話が鳴り、一礼して棚へ。

七五書店の店長さんとは、思えば旧い知り合いだったりする。といっても、旧「はてなダイアリー」でのことだ。わたしがまだ会社員で、なんともいえない抱え込んだ気持ちを吐き出す場として「日乗」を書いていた頃に、何かのきっかけでつながり(キーワードかな)、わたしもゴロウさんの日記を読むようになった。毎晩遅くに帰ってきては、漫画の山を崩しながら、うどんを食べているゴロウさん。本屋さんの仕事って本当に大変なんだなあ、でも、好きな本に囲まれての毎日で、漫画の年間ベストを紹介してくださったりして、楽しそうで羨ましいなあ、などと思っていた。そのうちわたしは会社を辞め、古本屋をやります、と新しい日記を始め、名古屋で初めての一箱古本市に出ることになりました、と書いたら、ゴロウさんはこっそり円頓寺商店街に来てくださっていた。名乗れませんでしたが、単行本も文庫も一緒に並んでいて新鮮でした、とメッセージをくださったのを覚えている。わたしが古本屋としてもがき始めた同じ頃、ゴロウさんは店長になっていたのですね。

七五書店の棚の本はだいぶ減っていた。多くの本が面陳され、空いた棚を埋めていた。人混みをすり抜けながら、棚の本を一冊ずつ見ていると、たまらない気持ちになった。ゴロウさんが一冊ずつ、このお店でお客さんに手に取って欲しいと思って選んで、並べた本たち。流通ルートこそ違え、わたしも同じ思いで本を選び棚に並べている。それがもう今日限りになってしまうなんて。こんなに熱心に見てくださるお客様に、もうここでは会えないなんて。

さすがに店内で泣いている人はいない。なんとか堪えて漫画の棚へ移る。わたしのなかでのゴロウさんは漫画だったので、なにか漫画を買いたかった。ふと見ると『あれよ星屑』が全巻揃っている。いつか全部読もうと思っていたけれど、それが今だ。岩波書店のものもなにか、と、岩波現代文庫版が出ていたとは知らなかった『岡本太郎の見た日本』を見つけて手に取る。

改めてレジでお話を、と思ったが言葉が出てこない。お疲れ様でした、も、ありがとうございました、も、わたしがいうべき言葉じゃない。思いが駆けめぐった末「また、お会いしましょう」と言っていた。そうだ、わたしが古本屋を続けていれば、きっとまた会える。

 

名残惜しく写真を撮ったりしていたら19時近くになっていて、慌てて知立に向かう。19時半過ぎに正文館書店に着き、さっそく棚に手を入れる。

2週間前に太閤堂が追加してくれていたが、すっかり棚はガタガタで、背を上にしてある文庫がたわみだしている。会期も折り返しなので、この際、思い切って入れ替えをしようと思い、値札の日付を確認して本を抜きながら、新しい本を追加していく。シンプルな出店スタイルではあるけれど、できるだけ見やすくと思い、本の並びも微調整する。思った以上に作業が増え、21時の閉店近くにようやくなんとか形になった。

目も手も足もバキバキに疲れていたけれど、どうしても今日はそこまでやらずにはいられなかった。本と、本屋さんのために、いま自分ができる精いっぱいのことをしたかった。

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