日日古本屋

岐阜の古書店・徒然舎店主の日乗です

4月24日(日) 賢太を悼む

うっかり寝坊。朝食は諦め、弁当は小さなタッパーにご飯だけ詰めたものを持って出る。

3回目副反応でスタッフが1人休み。同じく3回目後の太閤堂は、発熱してるっぽいが、店番サポートは頼める感じ。この薄暗い雨模様ではお客様も少なそう。わたしはなぜか今日はいろいろ調子よく、イベント準備をメインに本の山を順調に崩していく。

 

14時から店番に入る。あの日からずっと、今度お会いしたときにはあのお話を、と思っていたSさんがご来店。ゆっくり本を選ばれた後レジで本を差し出されながら「店長さんとお話ししたかったのよ、あの人のこと」とおっしゃる。ああ、やっはりSさんもそう思われていたんだ。

わたしが小さな記事を書かせていただいたのをきっかけに「本の雑誌」を購読されるようになったSさんは、すぐに西村賢太氏の連載日記に夢中になり、毎月のように「今月も賢太が不健康な生活してるのよー!」と笑って報告してくださった。

「そんなね、師匠の隣にお墓を作ったからってね、こんなにすぐ入らなくていいじゃないのねえ」「手元にね、たくさん資料もあるのにね、全集はどうするのかしら」だんだんと、言葉を詰まらせるように話される。「でもね、美味しいもの食べて、お酒飲んだ帰りだったのかしらね、それならね、それなら、良かったなって思ってね」

「店長さんとね、このことお話ししたかったの。賢太のことも、わたしの周りみんな知らないし、誰もわかってもらえないからね、この気持ち。話せてほんとによかった!」声を震わせながら、マスクの下で笑って、手を振って、Sさんは帰ってゆかれた。共通の友人を弔ったような、せつない思いが残った。

 

17時、来週からカナダに留学する学生スタッフさんを見送る。邪魔にならず、喜んでもらえそうなものを、と思い、日本茶ティーバッグを渡す。これ、われわれ社員からね!と、サプリを渡していて、なんかいいなと思う。

見知らぬ土地、馴染みのない言語と文化、そして赤の他人の家庭での3か月。自分にはとても無理!と思ってしまうが、それを超えるワクワクがあるのが若さということだろう。

スタッフと共に働くようになったことで、太閤堂とふたりきりで働いていたら出会うことのなかった出来事、知らなかった感性、そして日に日に成長して様々なライフイベントに向き合っていく姿に出会うことができるのが、実はとてもうれしい。

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