日日古本屋

岐阜の古書店・徒然舎店主の日乗です

3月31日(火) 店を開けない決断

昼過ぎに店に向かう。立ち寄ったセブンイレブンで、食べてみたいと思っていたイタリアンプリンを見つけ、昼食のサンドイッチと一緒にレジに出すと、バーコードを読み取りながら「これ美味しいですよネ!」と中国語の名前の若い女性がにこやかな笑顔で言った。「美味しいんですね!楽しみ」そう答えながら、久しぶりに心が緩んだのを感じた。

店の端っこだけライトをつけ、本棚の裏にある自分の席のパソコンの前に座る。今日やるべきことの順番をしばらく考え、まずは商店街理事長にメールを送ることにする。その文面を考えていたら、昨日から悩んでいた貼紙の文章も書き出せそうになった。

「店舗営業休止のお知らせ」

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昨日、お客様の途絶えた夕方6時過ぎから、お知らせの文章を考え始めた。まずは、今日シフトの入っていないスタッフに知らせなければ。

メールを書きかけて、ふと、店に流れるジャズが耳に入ってきた。この曲、おまかせプレイリストでしょっちゅうかかる曲だよなあ。覚えちゃったよ……あ。でも、あと30分もしたら、しばらくの間、こんな風に店に流れている音楽を聞くことはないんだな。

そう思った瞬間に、一気に、涙がこみ上げてきた。

大好きなこの店。とてもとても大切なこの店。

だからこそ、決断したのだけれど、頭ではわかっているのだけれど、明日からいつまでになるかわからないしばらくの間、ドアを開けることはできないんだ。

閉店時刻まで残り30分。メールを諦めて、店番用のカウンターに出た。ここからの風景。

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お客様が、本棚から気になる本を抜き出して手に取り、ぱらぱらと眺めたり、じっくり読み耽ったりしている姿をちらっと見る時間が好きだ。たまらなく満たされた気持ちになる。もっといい本を並べたい、もっと喜んでもらいたい、そんな気持ちが心の底から湧き出してくる。

けれど、次にその風景に出会えるのは、いつかわからないんだ。

涙が止まらなくなった。今はいないお客様の姿や気配を店内あちこちに感じて、ものすごい悲しみに襲われた。どうしてこんなことに、と、なんともならない悔しさに押し潰されそうになった。

閉めたくない、いつものように、ただいつものように、店を開けたい、それだけなのに。

 

30分泣いて、閉店時刻になり、太閤堂と正社員Iさんが2階事務所から降りてくる前に、なんとか涙を止めた。

がんばろう、とにかくがんばろう。

そして、その日が来たら、心からの笑顔でお客様を迎えられるように、今できる限りのことをしよう。

 

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またこのドアを開けられますように。

たくさんの方に、来ていただけますように。