日日古本屋

岐阜の古書店・徒然舎店主の日乗です

10月19日(月) 尚ちゃん

3時半の地震で目を覚ますと、太閤堂はまだ元気に映画を観ていた。二度寝では眠りも浅く、朝は久しぶりに尚ちゃんの夢を見て起きた。

尚ちゃんは、30歳の年末に肺炎で亡くなってしまった、高校の演劇部時代の友人。新卒で教員採用試験に受かり、結婚し、2人のお子さんを産み、義理の両親と同居する二世帯住宅を新築し、なにかとなんとなく停滞した暮らしをしていたその頃の自分に比べ、とにかく努力家の尚ちゃんはみるみる人生を進めていった。まさか先に人生ごと終えてしまうなんて思ってもみなかったけれど。

由布は手堅い人生を送りそうにないからさ、困ったらいつでもわたしがご飯食べさせてあげるからウチに来なよ」

料理上手な尚ちゃんは、一緒に裏方仕事の打ち合わせをしながらよくそう言っていた。「別にわたし、演劇で食べていくつもりないし、ふつうに就職すると思うよ?」と言っても、「ははは!由布には似合わないよー!」と笑っていた。大学生になり、自主公演をしようと長期休暇ごとに集まっていたときも、何かにつけてそれを言った。

東北の震災が起きたとき、テレビとTwitterの見過ぎで、無力感でぐったりしながら、尚ちゃんはこの経験をしていないんだ、と思った。わたしが古本屋になったとき、尚ちゃんは古本屋のわたしを知らないんだ、と思った。コロナ休業中も、尚ちゃんのことを考えていた。

尚ちゃんがいなくなってしまってから15年分、つらいことや悲しいこと、思い通りにいかなかったことがあったけれど、思いがけず楽しいことや幸せなこともあったよ。つべこべ言わず、生きなきゃだよね。と、また朝から思った。

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雨は上がったものの一日中薄暗くて肌寒かった。文庫棚の補充・入れ替えをしたり、作業場のストーブをつけて100均文庫の仕分けをしたり(今日開けたのはハヤカワ文庫の箱だった。映画カバーのものが多い!)、給与計算を始めたり、週末のイベント準備をしたり(当店は場違いなのではないかという思いが日に日に強くなっていて若干弱気に)するうちに終わった。売上はひとまず最低目標をクリアできてほっとする。これからまたぐんぐん寒くなっていくのだな。

夜、日曜美術館神田日勝を見る。神田日勝といえば、最近また姿を見かけなくなってしまって心配している常連yさんに教えていただいた画家だ。日勝が運ばれる救急車の中で、もし命が助かっても目は見えなくなるでしょう、と言われた妻ミサ子さんが、「あんなに絵が好きな日勝が失明して生きていくのはあまりにつらいだろう、だったらひと思いに、と思っていたんです。日勝は農家でもあるのに、すっかり忘れて」と笑った顔が目に焼き付いた。

 

…書いてきてみて、なんとなく暗い話題が多くなってしまったなあと反省。心配されてしまったらいけないなあ。偶然そうなっただけなのですよ。確かに、悲しいニュースが多い今日この頃だなとは思ってしまってますが。

ウポポイと歴博ジェンダー展と森美術館ととにかく西へ東へ美術館めぐりをしている古本屋仲間がうらやましいな。休みにはどこか行こう。