古本屋の仕事は、感傷的な仕事である。
もちろん、「本」という、人の心の奥底に届くエモーショナルなものを扱っている点において、新刊書店や図書館でも、感情を動かされる場面に遭遇することは多いだろうと思う。
ただ、古本屋は「買取」という他の職種にない仕事によって、日常的に「死」を意識させられる。
亡くなったご家族の蔵書整理のご相談は毎日のようにあり、いわゆる「終活」でコレクションを整理されたいという方も多い。
一方、2、30年前の本なら「新しめの本」という認識の古書の世界では、買い取ったばかりの本の書き手も、既に故人となっていることがほとんどだ。
今はもういない人たちが、つくり、売り、それを買い、読んできた「本」が、人間の寿命を超えて存在し続け、今ここにあるのだなということが、ふと頭に浮かんで、手元の本をじっと見詰めてしまうことがある。
感傷的にならざるを得ない現場も、時には、ある。
わたしはつい思いを馳せたり、重ねたりしてしまうところがあるので、意識して仕事モードに頭を切り替えて淡々と手を動かすようにすることもある。いちいち泣いたり胸を痛めたりしていては、誰のためにもならないからだ。
けれど、この感傷にまったく心動かされなくなってしまったら、小さなまちの古本屋の仕事はできないだろうな、とも思う。
古本屋の仕事の世界は、センチメンタルと、なかなかの下衆さと、独特の優しさで満ちている。
それをもっと伝えられたらな、お客様にも理解していただけるだろうし、古本屋の仕事に興味のある良いスタッフにも巡り合えるかもなと、よく思うけれど……話せないことが多すぎる。
知り過ぎてしまう仕事でもあるので、とにかく古本屋は口が固いことがとても大切。