日日古本屋

岐阜の古書店・徒然舎店主の日乗です

2月4日(木) 「文学のためにできること」

つい先日、偶然当店に通販の注文をしてくださった、大学時代の先輩から再度注文をいただく。

華やかでもなく真面目でもなく清貧だったわけでもない学生生活だったけれど、振り返ると一番学生らしいバカな思い出を一緒につくれた仲間たちと共に時間を過ごした先輩。斜に構えているけれど純粋で、そんなところをみんなが弄ったりしていて、でもとにかく研究にまっすぐで熱かった先輩。文学研究というものがなんなのか最後まで掴みきれず、目の前の人生のことばかり考えてしまったわたしは、挫折したり勘違いしたりして遠回りしながら、今ようやく古本屋の仕事に辿り着いたのだけれど、先輩は大学教授になっていた。

お久しぶりです、というメールに驚きつつも、今の研究対象の面白さを語ってくださったお返事を読んで、すっかり文学研究なんてものから遠ざかってしまっていたわたしは恐縮しつつも、どこか懐かしく、嬉しくなっていた。その関連なら、こんな作家のものも古書でよく扱いますよ、古本屋になってからたくさん作家を知れて面白いんですよ、とお返事すると、わたしが学生時代にチマチマとHTMLを打ってつくっていたホームページの名前を挙げて「ずっと、『文学のためにできること』をやってるってことですね」と書いてくださった。

自分は、本を売り買いすることを生業にしていることを、本を読み書く研究者や、純粋に本を愛し楽しむ読者の方々よりも、卑しいのではないか、と、心のどこかで思ってしまっているところがある。商売は二の次で、店には自分の好きな本を並べて読み漁る、昔気質の古本屋さんのことを羨ましく思っている節もある。なので、研究者として大成している先輩を前に、どこか卑屈になりかけている古書店経営者としての自分に気づいていたのだけれど。古本屋という仕事は『文学のためにできること』なのだと、そういう目で捉えてもらえたのだということが、胸に沁みた。自分もすっかり忘れてしまっていた、よくみんなに弄られたホームページの名前なんて、覚えていてもらえて。

自分は文学が好きだけれど、無知で非力な自分は、文学のために何かできることはあるんだろうか? そう思って、学生の頃にできたことは、文学関連のニュースを新聞からスクラップして手で入力してまとめたホームページを作ることだったけれど、それが今は、古本屋という仕事、だったんだ。

まだまだ自分の知識は恥ずかしいくらいに浅い。でも、これまでよりは少しだけ胸を張って、文学部文化学科国文学専攻を卒業したんですよ、と言えるようになれたかも知れない。ありがとう、先輩。これからも、がんばります。

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