日日古本屋

岐阜の古書店・徒然舎店主の日乗です

3月19日(木) 買取

朝、最高気温20度の予報に驚いて、春が近づいてきていることに改めて気付かされたら、そういえば最近はあまり大型の買取が入っていないなあ、ということに思い至り、けれどネットを覗けば出張買取に忙しそうな同業の様子が目につき、途端に、物凄くそわそわ落ち着かなくなってしまった。

よい買取依頼(大量だったり堅い内容だったり)が来るかどうかは、運の面も大きいことはわかっているし、一喜一憂していても仕方ない。とは思っていても、どうして来ないんだろう、何をしたらいいんだろう、と気持ちばかり焦ってしまう。

SEOってやつなのか?Googleの有料広告なのか?もっと買取に重きを置いたWEBサイトにしないといけないの?まずはチラシ?DM?そもそも法人じゃなくて個人事業主だから信用がないのかしら?老舗じゃないからダメ?「まちの古本屋」なんて言ってるからダメ??

渦巻く焦り。誰かと比べて卑下する気持ち。何から始めればいいのかわからず、ただ悶々と考え続けてしまっている。

……

「本の買取お願いします」

数箱の段ボールでお持ちいただいた本の半分以上は、古いベストセラーだったり巻が揃っていなかったりして値段がつかない本で、正直なところ、気持ちはあまり晴れないまま、その査定を終えた。

「すみません、本の持ち主が認知症なので、ちょっとずつしか持ち出せなくて。とにかく本はたくさんあるんですが、よくわからなくて…来ていただけたら一番いいのはわかっているんですけど…」

ハッとした。その一言で我に返った自分に気づいた。

「いえいえ、そういったご事情のご相談もよくいただきます。また、なんでも、お電話でもご相談ください」

買取代金をお支払いしながらお話をすると、お客様がほっとした表情をされた。

「お力になれることがありましたら、いつでもお声掛けくださいね」

大きな儲けにはならなくても、この店を開ける、ここで生きて働くための、わたしにとっての大きな原動力は、こういう一つ一つの積み重ね、だったよなあ。

そうだ、忘れてしまいそうだった。

 

また店の外から声がする。

「あー、すいません、これ、この本、引き取ってもらえませんかねえ。お爺さんがね、大事に持ってた本なんでね、捨てられなくってねえ、はは、は、ああ!重い!」

自転車の荷台に、分冊百科のバインダーをいっぱいに積んだお婆ちゃんがやって来た。

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大変なときなので…と、スタッフさんが那智詣での際に買ってきてくれた「除災与楽」の牛の絵