日日古本屋

岐阜の古書店・徒然舎店主の日乗です

4月26日(日)

昨日誘っていただいた正文館書店さんでの古書フェアのための準備を始める。それにしても5月1日スタートとはあまりにも準備期間が短い。長机2つ分なのでバナナ箱で20箱くらいは必要だろうか。気持ちはものすごく焦っている。ただ、そうなると逆にぼんやりしてしまうことがあって、今日はそんな感じだった。あまり締切を意識しないようにして、淡々と、本に値段をつける。

参加を決めてから一晩じゅう迷ったが、店に並べようと思って値札を貼ってきた分を、そのまま正文館書店さんに持っていこうと決める。店を再開するときまでに、棚の本の大部分を入れ替えて、久しぶりに来店されたお客様をめちゃくちゃ驚かせて喜ばせたい、と思って、店を休み始めた今月初めからこつこつ値付けしてきた本。徒然舎に入荷した本は、まず一番に店に並べる本を抜いて、その残りをインターネット通販や市場で売る、と決めている。喜んでくださるお客様の顔を思い浮かべながら値付けした、愛着のある本。でも、今はそんなこと言っていられないんだ。

そういう目で選んで、そういう気持ちで安めにつけた値段だから、きっと正文館書店さんでも喜んでもらえるはず。お店の方も、こまめに棚を整理してくださったり本を大切に扱ってくださる方ばかりなので、売れずに帰ってきた本たちもまたきっと徒然舎の棚で光ってくれるはず。

 

おとなしい食を心がけたら、胃腸の具合はほぼ回復。やはり揚げものと甘いものとコーヒーにやられちゃっていたのだな。あと、帰宅してすぐ風呂にゆっくりつかるようになってしまったので夕食の時間が遅くなり、短時間で作れる炒めものが多くなっていた。外食も中食も控え、店と家との往復ばかりの日々。買いだめたものでの毎晩の自炊は、献立決めも含め、疲れた身にはこたえる夜もある。

一方まちなかで働く身としては、まちなかのお店をささやかでも支えたい。今日のお昼は胃と相談して弱気なお弁当にしたので、食後に柳ケ瀬のサロン・ド マルイチさんへ行く。ここのところ毎日、太閤堂がスタッフさんのためにと淹れているコーヒーの豆もなくなったので買いたかった(使い切ったのは星時さんの豆)。

――これまで、出張買取や古書組合での仕事で店を不在にしがちだった太閤堂だが、休業に入り店で過ごすようになったところ、熱心に、そして献身的に働いてくれるスタッフさんたちの姿を目にし物凄く感動して、ありがたく思う気持ちの表現のひとつとしてコーヒーを淹れるようになったらしい。この災厄のなかだからこそ見えてくるものは、確かにある。

久々にアーケードの下を自転車で走った。サンビルのときは人で溢れる通りが、自転車ですいすい走れる寂しさ。マルイチさんは静かに営業されていた。日々たくさんの人が集い、おいしいものを楽しみ、笑っていた客席エリアは閉じられている。入り口すぐのテイクアウトコーナーで、コーヒー豆と食パン、スタッフさんへのエクレア4つと我々用のマドレーヌを購う。

マルイチを始められる前は毎日のように店を覗き、アートの本を買ってくれていた店主Oさん。昨年末、当店での展示にあわせてのトークイベント以来に会い、話せた。ひとり、抜け殻のような店を見ながらお客様を待つのは、とてもつらいと思う。心の救援物資になれば、と、鷲田清一の文章に植田正治の写真が添えられた文庫を贈った。

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4月25日(土) 本の仕事の矜恃

胃腸の具合はあと一歩というところ。ほんとうは今日も、ご近所でたくさん売られているお弁当を買いに行きたいところだったけれど、自粛。

外出自粛のなか、ドライブスルーで買うことが難しい商店街や大通りの飲食店さんのテイクアウトはさらに大変だろうと思う。せめて近所に通勤している自分のような者だけでも…と思うのも正直な気持ちだが、まず純粋に、いまのわたしにとって貴重な楽しみの一つなのだ。

 

夕方、思いがけないメールが届く。年明けから1か月近く、古書フェアに呼んでくださった正文館書店知立八ツ田店さんから、急遽5月いっぱい開催することになった古書フェアに参加しませんか、というお誘いだった。

店を休み、あらゆるイベントがなくなった今、お客様に本を手に取ってもらい販売するチャネルを失っていた当店にとって、この上なくありがたいお話。反射的に、ぜひお願いします、と返信を書き始めた。

しかしこの試み実現の裏には、いろいろな葛藤や悩みを抱えながら日々店を開けてくださっている書店スタッフの方々がいる。ちょうど昨日、そうした書店員さんたちの苦悩について、新聞記者さんからも聞いたばかりだったじゃないか。

深い深い感謝とともに送ったメールに、すぐ返信をいただいた。

「本の力を、いま、多くの方が求めている気がします。自分に出来ることがあれば、していけたらと思います。」

医療従事者の方はもちろん、物流や生活必需品小売業など、悩みやストレスの大きい中、それでも目の前の患者やお客様のために、と、心身を削るように働いてくださっている方々。そうした方々と同じような強い気持ちに突き動かされ、書店員さんも今、本に向き合っておられるのだ。命に関わらない、たかが本を売っているだけなのに大げさな!という声はあるだろう。その意見もわかる。ただ、同じく本を仕事にする者として、その矜恃は、とても力強く響いた。

いつも以上に切実に本を求めるお客様に、新刊とはまた異なる古書の面白さを楽しんでいただけたら、という純粋な思いで企画されたというこの古書フェア。あまりにも準備期間が短いので初日にどれだけ間に合うかわからないけれど、期間中少しずつであっても、充実させていきたい。お客様と、正文館書店の皆さんに、できるだけ喜んでいただきたい。本を手にしたひとときだけでも、心が穏やかに過ごせますように。

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4月24日(金) Zoomと取材と下痢

毎月下旬に来てもらっている税理士さんと、Zoomで会う。最初にあれこれとこの1か月と現状の報告や相談をしてから、クラウド会計ソフトの入力チェックをしてもらう。必要な書類はスキャンしたりデータごと送ったり、簡単なものはLINEで写真を送る。プリントアウトしたり、準備し忘れてあたふたする普段より、便利なんじゃないか。

チェックしてもらっている数時間の間、「見られたがりなので」という謎のアピールがあり税理士さん側のカメラだけはオンになったまま、こちらはオフにする。パソコンで別の事務仕事をしていると、税理士さん側のマイクが拾う音(キーボードを叩く音や紙をめくる音)が聞こえてくる。席を離れて本を触っていると、「すみません、ちょっといいですか」と声で呼ばれて戻る。ふと、事務所で働いていた会社員時代を思い出す。ちょっと懐かしい感覚。

今このままの状態が続くと、どうなってしまうのか、シミュレーションしてもらった表が忘れられない。

 

突然、爆撃されたのではないかと頭が混乱するほどの衝撃。ものすごい落雷があり、ビルごと震えた。スタッフが「店長!大丈夫ですか」と降りてきてくれる。ふたりで怖がっていると、ん?雷ですか?あ、こっちも聞こえました、とカメラの向こうの税理士さんののんびりた声が聞こえて落ち着く。

 

夕方頃、新聞社の方から電話がある。緊急事態宣言の中での、書店と古書店の状況を記事にされたいとのこと。昨年末に店内で開催した展示を、さらに遡れば7年前、柳ケ瀬での「ハロー!やながせ」の一箱古本市も取材してくださった記者さんなので、信頼もあり、色々なお話をする。

休業要請をされていない、逆に営業を続けてほしいと言われている新刊書店さんの苦悩をお聞きし、胸が痛くなる。自分が3月に苦しんだあの状況が、さらにシリアスなものとして、現在も続いているのだと思うと、心中察するに余りある。

ただ、本そのものについていえば、この状況で、その価値が見直され、求められるようになっているようにも感じる、とお話しした。

 

最近、栄養のあるものを食べたり、長めに横になるようにしたり、ストレスを溜めないように意識したり、いろいろ気をつけているつもりだけれど、朝起きたときに体力が8割くらいしか回復していない気がする。店に着けば気力が上乗せされて、9割くらいの感じでは動けるのだけど。

栄養のこととストレス解消を意識しすぎた結果、暴飲暴食。胃腸に負担をかけてしまい、昨夜はお腹を下して目が覚めた。バランスが難しい。先は長いだろうに。

 

4月23日(木)

店に出勤して「おはようございまーす」と声をかけたとき、スタッフみんなの声が明るいと嬉しい(マスクで口元は見えないから声で判断)。お客様も来店されないし、仕事でも趣味でも外出しなくなったので、ソーシャルディスタンス対策で1日最大3人までにしたスタッフさんだけが顔を合わせる他人、という日ばかりの生活。朗らかなスタッフさんたちで本当に良かったと日々思う。みんなでこの徒然舎という船を毎日必死で漕いでいる。

昼、神田町の和食まるもとさんのお弁当を買う。これからはできるだけ、店に出勤した日は近くのお店でランチを買おうと思う。大きな助けにはならないだろうけれど、ほんの少しでも気持ちが伝われば。ついつい仕事に熱中していて昼ごはんを食べそびれてしまうのを防ぐのと、運動不足解消のためにも、よさそう。

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夕方近く、本と道草さんから連絡がくる。試作品をお裾分けしてくださるとのことで、ありがたく頂戴する旨お伝えすると、もろもろを鑑みて「置き配」方式で箱を置いていってくださる。思いがけず大きな箱を開けると、ぎっしり詰まった台湾風カステラやクッキーと、「10年目のスタートおめでとうございます」のメモ。

「震災の春、徒然舎の棚に元気をもらいに通っていたことを、最近ふと思い出しました」とメッセージをくださった、本と道草さんは、実店舗をオープンしたその日にも来てくださった、最古参の常連さん。その後、お手伝いをお願いするようになり、現店舗への移転の夏は、一緒に汗をかきながらペンキを塗ったり窓を拭いたりした。あの頃からも、もうすぐ6年になるんだな。

本と道草さんのお菓子を頬張りながら、いろいろなことがあった9年を、少しだけ振り返る。経営の面ではもちろん、今が最大のピンチではあるけれど、気持ちの面ではもっともっとつらい時期もあった。そんな頃に比べれば、一緒に働いてくれる仲間がいて、気にかけてくださるまちの人たちがいて、応援してくださるお客様がいるという今は、ほんとうに幸せなものだ。下を向いてちゃいけないなあ、と、また思う。

4月22日(水) 今日から10年目

こんな最中に家賃が3倍になると告げられ、途方に暮れながら移転先を探すも、古びたマンションの3階とかしか候補が見つからず、絶望して遠くを見る……という夢で目が覚める。たまらん。ソファで15時過ぎまで二度寝する。

何かしなければ、と思いパソコンを開くも気力は湧かず、読もうと思っていた本を手に取るも開く気が起こらない。諦める。

サバンナ高橋今田耕司、千鳥ノブ、ダイアン津田のオンライン飲み配信のYouTubeを流しながら、洗濯やら片付けをし始めたら、ちょっとずつ楽しくなってきた。最近改めて、お笑いが好きでよかったなあと思う。こんなときでもなんとかして笑わせてくれようとする、根っからの芸人さんたちに、とても感謝している。

夕方頃からようやくスイッチが入り、オンラインショップの商品登録を始める。時折Twitterを覗くと、いろいろな古本屋さんがそれぞれに工夫を凝らし、得意を活かし、売り上げをあげようとがんばっているツイートがたくさん目に入ってくる。有名店や著名人に知り合いのいるお店のツイートはバズっていたり。たくさんのご注文ありがとうございます!という文字を見たり。みんながんばっているのだから自分もがんばらなきゃな、と励まされる反面、羨む気持ちが抑えきれなかったり、自分には出来ないなと自信を失ったりしてしまう。情報を発信しつつ、情報を遮断して淡々と、というのは、なかなか難しい。店舗休業の日から3週間、相変わらず心は常にそわそわ落ち着かない。

実家に暮らす慢性疾患を抱えた猫の通院のために外出した太閤堂に、成城石井コーヒーゼリーを買ってきてもらう。食べながら、黙々と、オンラインショップを更新し続けた。

太閤堂に言われて思い出したけれど、そういえば、徒然舎の実店舗オープンから9年が経っていた。今日から10年目だ。店は続けられているけれど開いてはいない、というのがなんとも悲しい。なんとかまた、ドアを開けて、10年目の営業をしたいのだ。

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4月21日(火) ふつうのカレー

昨日、閉店時刻の19時近くになるにつれ、疲れがじわっと身体中に染みてきた。2日間、しっかり休もうね、とiさんと話して、すぐに帰宅。ここのところの習慣で、まず風呂に入ろうと湯を張り始めたが、ぐんぐん疲れが迫ってくる。眠りかけたとき、湯が溜まり、急いで入る。いつもなら、少し汗をかくくらい湯に浸かっていれば、いったん疲れがリセットされて、よーし夕飯つくるか、という気持ちで上がれるのだけれど、今日はだめだ。ただ疲れがにじみ出てきた。炊き上がった米を、ありあわせのおかずで掻きこむ。何故か腹ぺこで、そんなこと滅多にないのに、ご飯をおかわりしてしまう。食べ終えた瞬間から、寝たくて仕方なくなり、早々にベッドへ。日課の日記に取りかかり、今日一日を思い出しながら書き始めると、もやもやとした気持ちがわいてくる話題を書き始めてしまっていることに気づき、いかん、今夜はやめよう、と決め、スマホを置く。ダイアンの声をリアルタイムで聞くうちに、寝てしまっていた。

 

目覚めたのは朝5時くらい。中途覚醒は相変わらずなものの、久しぶりにぐっすり眠った感じがある。いいぞ、と思って、また眠る。むにゃむにゃしつつも昼まで寝る。なかなかの満足感。

ココナッツフレーク(そのまま食べると結構美味しい、牛乳かけるのはイマイチ)をかじってから、税理士さんに連絡。今週末に来てもらう予定だった監査を、zoomを使ったリモートでやりませんか、と提案。必要書類は画像でやり取りすることになり、すんなり通る。柔軟な対応をしてくださる方にお願いしていてよかった。

非常事態ばかりの今、頭も組織も行動も、柔軟さを失ってしまったらおしまいだなと思う。必死だから、すぐ視野が狭くなる。狭い方が安心だったりする。けれど事態は日々動いていて、目を閉じてやり過ごせばなんとかなるということはない。柔軟に、柔軟に。常に考えて。安心しないで。投げやりにならないで。諦めないで。毎日自分を励ます。

この2日間は家から出ないと決めたので、家にある材料で、ものすごくプレーンな家カレーを作る。ふつうの家カレーなんて作るのはいつ以来だろう?ニンニクやすりおろし生姜を入れてゆっくり野菜を炒める、薄切り肉にはカレー粉を揉み込んで、炒めず煮立ってから広げて入れる、ルーが溶けてトロミが出てきたら火を止めて味をしみさせる。そういう、時間がかかる「ふつう」の工程を踏むカレーを本当に久しぶりに作った。ふだんの帰宅は早くても8時過ぎなので、そこから作れる夕飯はどうしても短時間で作れる炒めものや麺類などになってしまう。カレーといえばレトルトか外食になっていた。外出自粛の賜物のカレー。昨日、OGUTEIさんで買った自家製ソーセージを添えて、あっという間に食べてしまった。来週火曜もカレーにしようかな。

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4月18日(土) 心は制限されない

すっきりした目覚め。ちょっと寝不足気味ではあるものの、昨日とは全然違う気持ち。あたま。よかった、今日は力が湧いてくる。でも、張り切りすぎないように、とにかく楽しむことを忘れないように。

心配をかけてしまったスタッフさんたちに謝ってから、店で仕事スタート。とにかく本を触っていれば落ち着くはずなので、はやる気持ちを抑えながら、着実に1冊ずつ値付けをするという基本に返る。

しっくりくるBGMが見つからず、ポップス、ヒップホップ、アンビエント、クラシック、ジャズ、と彷徨った挙句、ネイチャーサウンドに行き着く。鳥の鳴き声。雨の音。波の音。邪魔にならなくて集中できていいなあ……と思ったけれど、店長がこんなの聞いていることにスタッフが気づいたら変な心配させちゃうのでは…と不安になり、二階から降りてくる足音が聞こえたので慌てて「癒しのクラシック」チャンネルに替える。(今日の仕事の共ラジオは、宮下草彅、かまいたち、と聞いて、爆笑問題カーボーイの途中まで)

月末が近づいてきていることに気づいたので、少しずつ事務も進める。机を片付けながら書類を処理していると、「なんでもなかった頃」のものが出てきて、ものすごく切なくなる。こんなことになるなんて思ってもみなかったのに。…ただ、それは今や日本中、世界中の人たちが共有している気持ちなのだから。

今はあまり考えるのはやめよう。一日一日を、最善と思える過ごし方で、とにかくできるだけ朗らかに、暮らしていこう。

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『ひとまねこざる』のレイ夫妻が手掛けた生前未発表作品『ペンギンくん,せかいをまわる』。ユダヤ系ドイツ人だった夫妻が、第二次世界大戦前夜のきな臭いパリで描いたものだと知り、胸が詰まる。

戦争ではないけれど、命の不安もあり世界を自由に飛び回れないというのは、今も同じ。そんな中で、こんなに伸びやかで楽しい作品、愛らしいキャラクターを描いていたなんて。

身体の自由は制限されても、心は自由になれる。いろんな自由の獲得方法がある。それを忘れちゃいけない。嘆いてばかりじゃいけない。