スタッフからのLINEで目覚め、それならとそのまま起きて静かに身支度し、炊き上がった白米を弁当箱に詰めて保冷剤をあてて、家を出た。通販で売れた本を棚から抜き、新入荷ワゴンの本を棚に入れていたらみんな次々に出勤。太閤堂が弁当も持って出勤。朝ミーティングのち朝礼。
薄暗くて少し肌寒くもあり、雨は時おり激しく、体調も気持ちも、みんなも自分も、心配になったが、無事3階の本棚の塗装をほぼ終えられてほっとする。3階の作業のため何度も階段を行ったり来たりすることになり、自然と歩数も伸びるのはいいことだ。
ノートパソコン購入についてNECの法人窓口に問い合わせたところ、折返しでかかってきた電話の女性がラジオのテレホンショッピングのそれのような話し方で、一気に苦手意識をもったが、面白がることでなんとか克服し、注文できた。
本田慶一郎「まなざしを結ぶ工芸」を入口すぐの台に積み、座ってゆっくり表紙を開く。よい紙を使っているからだろう、思ったより重さのある本はしかし重厚さを強調することなく軽やかに造られていて、親しみが湧き、その佇まいが「本田」のおふたりのようだと思った。
紹介の言葉を見つけたいと思い、巻頭を読み、少し本文を読み、寄稿を読み、あとがきを読む。思いがけず、店を始められた頃のことや、仕事に対する思いが変化していったことなど、平坦ではなかった心持ちが率直に綴られているのを目にし、気づいたら、思いがけず、涙が込み上げてきていた。
思えば、毎日悩んでばかりだった駆け出しの頃、機会は多くなかったけれど本田さんにお会いしてお話ししていると、とにかく自分を信じて進んでみようという気持ちになれていた。当時は深く気にとめず、こんな駆け出しを古本屋と認めて応援してくださることを嬉しく思っていたが、さまざまな応援の言葉は、ひとえに、自ら信じて努力し続ける本田さんだからこそ言える、説得力のある言葉だったのだ。
驕らず、近道せず、自らの「まなざし」を信じて進むことには少なからず勇気が必要で、かつ現実的な苦労もたくさんあったことだろう。それを引き受けてでも、その道を選び精進してゆく姿は、凛として美しい。古本屋のわれわれはもう少し下衆な世界にいるけれど、自らの道を信じて、近道はせず、誠実に一歩ずつ歩を進めてきたという自負はある。おふたりに、そして真摯に本に向き合ってくださるお客様に恥じない店になっていけるよう、もっとがんばっていこうと思った。