日日古本屋

岐阜の古書店・徒然舎店主の日乗です

10月5日(水) 生きる意味

今日はどこにも出かけない日、と昨日決めていたので、のんびりと起き出す。ゆっくり火を通すスクランブルエッグに再挑戦。クリームチーズを少し入れて、ごく弱火でゴムベラでかき混ぜ続けたら結構それらしくできた。ベーコンと枝豆も炒めてトーストに添えて、それっぽい気分を盛り上げてブランチ。

何をするわけでもなくベッドに寝転んで過ごす。生産性のあることは何もしない。基本的に受け身でいる。とにかく体力に自信がないので、体と頭を休めるというのも大事な仕事のように思っている節もある。ただ、ぼんやりとSNSを眺めているうちに余計な感情を食らってしまうことがあるので気をつけなければいけない。SNSは怖い。

このままだとお腹も空かないし、さすがに運動不足だと思い、夕方に歩いて家を出る。もうすぐなくなる薬をもらいに、行きつけの内科と薬局に行き、帰りにスーパーに寄る。いつもは仕事の後に慌ただしく寄るので、その時間では売り切れていて出会うことのない惣菜や値引き品、ゆっくり探せば見つかる調味料などに目移りしつつ、無駄遣いせぬよう律しつつ買い物。

夕飯は、買ってあった生鮭が古くなるので、ホットプレートでちゃんちゃん焼きにして、途中で焼きそばを入れてみる。思ったほど香ばしくなく残念だったが、まあ、食べられた。

久しぶりに「家、ついて行ってイイですか?」を見たかったのに、改編期だからやってないみたい、と言われて残念。あんな風に、ふと出会ったテレビクルーにデリケートなプライベートを話すものかなあ、と思うところはあるけれど、インタビューされて自分のことを語る気持ちよさ、カタルシスは知っているので、やらせというわけではないのかなとも思う。

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日記を読んだという見知らぬ方からDMが届いた。昨日の日記で「自分の人生に価値を見出せなくなった」とあったが、古本屋という仕事に出会い、生きる意味を見つけられるようになるまで、何に取り組んできたのですか、との質問だった。唐突な、重い質問に戸惑いはしたものの、30歳だというこの方にとって本当に切実で切羽詰まったメッセージなのかもしれないと思い、そして自分もかつて折に触れ、こんな衝動的な行動をとってきたような気もして、何かをお答えせねばと思い、こんなお返事を書いた。

はじめまして、こんにちは。

徒然舎の深谷です。

日記、読んでくださってありがとうございます。


わたしは33歳まで会社員をしていたのですが、そこで自分が必要とされていないと感じ、心折れて退職しました。

会社を辞めてしまうとさらに自分の存在価値の無さと向き合うことになり、とても苦しみましたが、

そんななかでもとにかく、自分が昔から好きだった本に関わる仕事をしたいと思い、

その年齢からでも始められる仕事として、ネット古書店を始めたのです。


自分が好きな本を売り買いする仕事を通じて、お客様と出会い、お話をするうち、自分と、自分の開く店を必要としてくれている人がいる、ということを、わかりやすく体感することができました。

最初はとにかく儲けなんてありませんでしたが、やりとりのひとつひとつが心に沁み、自信になりました。

そして、こんなふうに自分を必要としてもらえる徒然舎という店を、絶対に守っていこう、より多くの方に必要としていただけるように育てていこう、という気持ちがどんどん強くなっていったのです。


仕事はなんでもいいと思います。あるいは仕事でなくても、ボランティアや趣味などでもいいと思います。(わたしは、人生のうち大きな時間を費やすことになる仕事を、それに充てたかったので、仕事にしました)

なにかしら、自分が必要とされていることをわかりやすく感じられる機会をもってはいかがでしょうか。

小さなことでも、対面で話したり笑ったりできることだと、いいかなと思います。

できればそれが、好きなこと、得意なことでしたら、お金にならなくても、うまくできなくても、あまり苦にならず頑張っていけると思います。

そしてそれを、続けていくことが大切だと思います。続けていくことで、知識や経験が蓄積していきますし、周囲からも信用を得ることができ、より良い出会い、深い繋がりが生まれると思います。


偉そうなことを書いてしまってお恥ずかしいですが、

なにかのヒントになりましたら幸いです。


追伸:

以前、徒然舎を始めるに至った経緯について取材をしていただき、「本の時間を届けます」(洋泉社・2016年)という本に掲載していただきました。絶版ですが、図書館などでは読めると思いますので、よろしければご笑覧ください。


徒然舎 深谷

お返事を紡ぎながら、いろいろなことが思い出された。自分が古本屋という仕事に出会ったときのこと、こわごわ少しずつ歩んできたこと、店を構えようと決めた日のこと、初めて店で本を売ったお金で食べた600円のラーメンのこと。これまでに出会ってきた、たくさんの、大半が名前も存じ上げないけれど大切な大切なお客さんのこと。

今この現状に心の底から満足しているわけではないけれど、あの頃の苦しみを思えば、ほんとうに贅沢で幸せな地点に立てているのだなあ、と改めて思う。お客さまの期待に応えるだけでなく、家族である太閤堂も、そして大切なスタッフたちも幸せにしていかないといけないという大きなプレッシャーを抱えているけれど、その苦しみは、わたしが生きる意味でもある。