日日古本屋

岐阜の古書店・徒然舎店主の日乗です

2月26日(金) モスキートンはもう聞こえない

開店からすぐ、新スペースの工事前の計測など打合せ。ついに、動き出す。特に金額的に、初めてのことばかりで、ふと我に返ると怖くなってくるが、お任せしているのが信頼できる方ばかりなので、大丈夫だと思える。

午後からは、月に一度の税理士さんの監査。確定申告も近いので、あれこれと指摘をいただく。

春休みに入っているせいか、今日はなんとなく若いお客様のご来店が多い。

レジでしきりと「本当にねぇ、本をきれいに整理されていて、素晴らしいわ」と褒めてくださるご年配のご婦人。「本をね、本当にきれいに整理されているから、見ていてとても楽しいわ。また来させていただくわね」と笑顔で何度か言って帰られる。本自体が手入れされていること、店内の掃除ができていることを褒めていただくことはあるが、「本が整理されていること」をストレートに褒めていただくことは無かった気がして、ほんわりと嬉しくなる。

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倉庫から戻ってきた太閤堂が、なんだか差し迫った顔で「さっき駐車場に行ったらさ」と話し出すので反射的に身構えると、一緒に行ったスタッフが、駐車場の中ほどに差し掛かったら両手で耳を塞いで苦しみ出した、なんてことを言い出す。予想外のオカルティックな展開に戸惑っていると、「猫避けに置かれている機械から、音が出ている『らしい』んだよ」と続ける。「ほら、あれだよ、若い人にしか聞こえない、モスキート音てやつ」。

数週間前、糞害のクレームに対処するためだろう、急に設置された猫避け用の機械が、我々を感知しては点滅で光ることには気付いていたのだけれど、そんな音まで出ていたなんて。毎日出入りしていたのに、まったく気付いていなかった。

「年取ると聞こえなくなるんだって!」と、コンビニにたむろする「若者避け」にモスキート音を流す、というニュースを見て笑っていたのはついこの前のような気がする。しかし、もう、すっかり、聞こえない側の人間になっていたわけだ。

老いたねえ、と、寂しく笑い合いながらも、モスキート音がまだ聞こえる世代のスタッフたちと一緒に働けていることを、一緒に働いてくれていることを、改めて幸せに思った。