日日古本屋

岐阜の古書店・徒然舎店主の日乗です

7月3日(金) tさん

薄暗いし雨が降りそうだし、朝からぼんやりしょんぼり。太閤堂は出張買取に出かけたため徒歩で出勤。とぼとぼと歩く。仕事が始まっても元気が出ず、ひとまず払込や記帳をしに郵便局へ。帰りに寄ったドラッグストアでバファリンと、コロナ後に初めて見た超立体マスクを買う。雨が降り出した。今日は均一棚は出せないな。

店に戻ってからも椅子に座ったままボーッとしてしまう。なにかしなきゃ、と思い、棚の整理を始める。長く売れていないものを抜いたアート棚の乱れを直し、入荷が続いて充実したのはいいがぎゅうぎゅう詰めだった思想哲学、社会学関係の棚の手入れ、そして、ざっと詰めただけだった新しい文庫棚の並びを直すうち、うっすらと汗をかいてきた。いつの間にか夢中になっていて、作業し終えたときには1時間経ち、さあ、店を開けましょう!という気持ちになれていた。こういうとき改めて、好きなことを仕事にしていてよかった、と思う。

f:id:tsurezuresha-diary:20200703232350j:image

閉店間際、前の店舗の頃からの常連tさんからお電話。久しぶりにお声を聞く。春にご主人が亡くなられて、ずっとバタバタしていたそう。いまテレビを見ていたらあなたが映ったから、思い出して電話したのよ!と。

昭和ヒト桁生まれの祖母とほとんど同じ歳のtさんと話していると、今は施設で暮らす祖母と話しているような気持ちになる。tさんもまた、孫のようにわたしに話す。

日に数人しかお客様のなかった前の店舗の頃には、「一緒に食べましょ」と、高島屋への買い物帰りに御座候やアップルパイをもって立ち寄ってくださり、お茶を飲みながら食べておしゃべりをした。お友達と行ったおすすめのランチのお店を教えてくださったり、わたしが学生時代を京都で過ごしたことを知ると、大好きだから年に何度も行くのよ!と熱心に京都の観光プランを話してくださった。新聞に小さく記事が載ったときは、目ざとく見つけて喜んでくださった。

年々、歳を重ねてゆかれるtさんの姿に、会うたび痩せてゆく祖母の姿が重なって、いつも少しだけ寂しくなる。

久々のお声はそれでも、思いの外お元気そうで安心した。娘が来てくれたときに、また本を売りに行くわね、またね、と、電話が終わった。今度来てくださるときのために、京都のお線香を買っておこう。

心の余裕のないときに話が進んでしまい、何度も電話やメールで打ち合わせがあったり、写真を求められたり、思いがけず振り回されて疲弊した、リモートでのテレビ取材。来週の予告にチラッと映っただけだったようだが、こうして久しぶりにtさんの声を聞けるきっかけになったのなら、報われた気がする。