数週間前に買取本を預けてくださったまま、ずっとすれ違っていたT子さんにようやく会うことができた。査定額のお支払いをしつつ、いつものようにお喋りをする。
T子さんは前の店舗の頃から運んでくださる、わたしの祖母とほとんど変わらない年齢のご近所の女性。とにかく暇だった旧店舗時代には、買ってきてくださったケーキを半分こして食べたりしながら、京都のおすすめランチや最近読んだ本のことなどを取り留めなくお喋りして過ごした。今の店舗に移転し、わたしが忙しくなってくる一方で、T子さんはご主人やご自身が体調を崩されたりすることもあり、お会いする機会が減っていった。それでも時折、離れて暮らす娘さんと読み終えた本を持ってきてくださるたび、顔を拝見しては安心していた。
T子さんは、わたしにとって、ほんとうの祖母のように思えているのだった。T子さんはいつもわたしの体調を心配しながら、店を応援してくださる。T子さんが手術を迷っていたときは、いろいろ調べた上で、おかしな民間療法はやめて、とにかく手術してほしいと説得した。回復されたときは本当に嬉しかったし、ご主人を亡くされたと聞いたときは本当に悲しかった。あなたの赤ちゃんを見たいわあ、と言われたときは、本当につらかった。
今日のT子さんは、法人化おめでとうね、と祝ってくださったあと、これおやつに、と、御座候の草餅をくださった。やっぱり粒あんよね、と盛り上がった。ここのところ歩くのがしんどくなってきてしまってね、と寂しそうに言われるので、これからあったかくなるし少しずつお散歩してくださいよ!と励ました。コロナだしずっと家にいるから、ほんとに、本ばっかり読んでるのよ。本があってよかったわ。と笑うT子さんに、山本善行さんが撰んでつくられたんですよ、と、灯火舎の「どんぐり」を薦めた。あらまあ、素敵な本ね、と喜んで買ってくださった。
夕方、岐阜県中警察署へ。法人としての古物商許可を申請する。先日、必要書類を確認してもらっていたので、19,000円分の証紙を添えてスムーズに終わる。法人の許可証ができたら、いま持っている個人の許可証と交換になるという。13年間、何度も記載事項を変更しながら一緒にがんばってきた許可証がなくなってしまうのは少し寂しい。
サンドリもよなよなも聴き終えてしまって、布団の中で聴くものが思い当たらず、ふとラジオ深夜便を聴きながら、NHKラジオの聴き逃し番組一覧を見ると、かなり前の番組も聴けるものがあることがわかる。最初に目についた「カルチャーラジオ 文学の世界」で、荒川洋治さんが語っているものを聴き始めたら面白く、何度か巻き戻して聴く。
詩と散文の違いについて。吉本隆明、大岡信の分析も紹介しつつ、荒川さん自身の「散文は社会的なことば、詩は個人的なことば」という表現にしっくりくる。正確に伝達することよりも、自分のなかにあることばを、恐れずに、どーんと提示するのが詩であると。
聴くうちに、読むたびに少し不快な不思議な気持ちになり、けれどまた何度も読んでしまうマーサ・ナカムラの作品を思い出していて、そうか、散文のように読んでしまっていたけれどやはりあれは詩なのだなということが腑に落ちた。